蝶の書物 3

蝶の書物 3




「中身ですか…?」
目の前の老人はそう言って嫌そうに此方を見る

「何よ…見せられないの?」
そう聞くと老人は何の躊躇もなく言う

「見せられませんね。」
そう言って風呂敷包み事、それを抱え込んでその場に立つ
「何で?もう、燃やすだけの物なんでしょう?
少し位見せてくれてもいいじゃない…」

目の前の人にそう言うと、その人は首を振る

「なりません。これは『蝶の書物』…残す事も見せる事も出来ぬ書物。
故に、貴女にも見せる訳には参りません」

その老人はそう言って、いつもはおどけた様な瞳をかなり真剣な色に変え此方を見る

「『蝶の…書物』ですって?」
誰でもない目の前のこの老人の使う『蝶』と言う言葉には、私とこの老人しか知り得ない理論を思い起こさせる

[バタフライ効果 butterfly effect]
とても些細な出来事がその後大きな変化を引き起こすきっかけになり得ると言う理論。
一番有名な話は『ブラジルの一匹の蝶の羽搏きはテキサスで竜巻を引き起こすか?』と言う問い掛け。

歴史の上に立っている自分達の頭にいつもこの言葉は重く圧し掛かる


もしも、王妃様が襲われなかったら?
もしも、自分が高麗に来なかったら?
もしも…あのまま戻ったままだったら?

もしも…



それらを確かめる方法はこの高麗に居る限り、無いと言える

自分達が暮らしていたあのソウルと言う町が、余りに此処とかけ離れた場所に存在しているから…
私達がこの場所で生活した後の世界がどうなるかなんて分かる訳がないから。

「どういう事?『蝶の書物』何て…」
その老人に問う

「お判りでしょう?私は、貴女と再び出会う為に少し…ずるをしました。
これはその証拠。」

そう言って老人はその包みを抱え込む

「この(此方の世界にとっての)異物は、本来此処にあってはならぬ物。
故に持ち込んだ自分が責任をもって処分せねばなりません」
その老人はそう言って此方を見る

どうやら、本当にその書物を私に見せる気はないらしくて…

「それに、この三冊はもう…本当に何の意味もなさぬ物。
私達が居る此処から始まる先の世は恐らく全く別の物になっております…
この書物を見ても、自分達が暮らしたこの先の世にはつながりません。」

老人はそう続ける

「その本、全く同じ本が三冊あるって言ったわね?
彼方、時間を越える度私と一緒で…毎回、一度あのソウルを経由して他の時間に辿り着いていたのよね?
って事は、ソウルに一度着く度に同じ本を買っていたって言うの?」

聞くと老人は答える

「そうですよ?同じ本屋の同じ棚の同じ所にこれらの本は置かれ、私はソウルに戻る度、ほんの5分ほどでこの本を買って…次の世界に向かいました。
ですから…いつも貴女とは少し違った時に落とされた。
そして、何となくそのズレもあるものとし…計画を実行していきました。
最終的に、私の身体が持たなくなって貴女やあの方に会えなくても良いと思いながら…」

そう言ってにっこりと笑う

「ただ、門は最後の最後…私の言う事を聞いてくれたようで。
貴女とあの方が揃う時代へ繋がる時に落としてくれたのですよ…
だから、これは燃やしてしまいます。
折角、門が私の言う事をたった一度聞いてくれたのですから…」





その方は、珍しく言い返す事無く此方を見た

この本は…見せられない。
特に、貴女には。

高麗の歴史…その終焉を迎える頃の記述は特に。

最初の本には…貴女の名は『医仙』の冠と共に登場する。
そして、この方にもあの方にも一度話したように、お二人が敵味方に分かれ…大護軍の名はその後消え、『医仙』の名は人の命数を越えて書物には書かれ…

高麗が無くなって李氏朝鮮時代が来ても尚、その名は書物に踊る

まるで…その人が本当に人ではないかのように
本当はそんな事が有り得る筈が無いのに。

もしかしたら…自分が知っている歴史さえ、本当は同じ場所を生きた貴女とは違う歴史かもしれない

貴女が歴史の分岐を幾つも作ってしまった後、恐らく自分は飛んであのソウルに辿り着いたのだから…

その違いは、この書物の一番古いものを見たらこの方には分かるんだろう。
だが、それがこの方にどんな思いを引き起こさせのか…それを考えると、どうしても見せられない…




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by 2540hnnhk | 2017-06-19 10:09 | 蝶の羽搏き | Comments(0)

「信義~シンイ~」に魅せられてその後のお話を綴っています。イラストも描きたい物を描いています


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