怪談爾後

怪談爾後







あの人には…怪談なんて、そんな話は嘘だと言った
確かに、半分は嘘だ。

だが、半分は本当で…足を掴まれ動けなくなったのは、本当だ。

新月の夜、誰も居ない天幕の中で一人…足を掴まれ下を向く。
自分の足を掴んで居るのは…数多の白き手。

冷たく、凍えるようなその手の束が引きずり込もうと必死に掴む

その手に向けて自分は…無慈悲にも、雷を落とした
足を掴んでいた手は、俺が雷を放った途端消え…

今もたまに悪夢として蘇る

あの頃は、生き抜く事に必死で、毎日どれだけの人を斬っていたのかさえ分からぬ

自分の精神もかなり病んでいたんだろうが…
俺の話す怪談で、その人はかなり怯え…怒りながらも、俺の身体に抱き付いて今も眠る

その女(ひと)の寝顔を見ながら夜は更ける
眠たくなる事は無く…目ばかりが冴えて、ずっと寝顔を見てる

それは…安心するから。

この方が側に居るだけで、怪異は起きないと何故か思えてしまう…
自分は、怯えている訳でも…後悔している訳でもない
そう…しなければ自分がそうなっていたのだ。

あの頃、これから…この先も、自分はそちら側に落ちる訳には行かぬから

柔らかく、甘い香りを放つその白く細い身体を抱き締める
この方を手に入れる為
この方を守る為、自分が出来る事は全てする。

それが例え、人の道に外れそうでも…
この方だけは絶対に無くしたくはないから。

抱き締めているその身体は身動ぎ、此方に寝ながら抱き付いて来る
そうして…

「私が居る。ずっと…」
眠ったままそう言って…抱き付いて来たその腕はあっという間に力が抜けてだらりと此方の体に巻き付く

もっと安心が欲しくて…眠っている女(ひと)の頬に唇を寄せる

何時もの習慣からか…その人は、頬に此方の唇を感じると自分の唇を其処へ寄せて来る
口付けは此処に…とでも言う様に。

「ん…」
寝惚けて目を閉じたままその唇は此方に向けられる

その小さな唇に自分のそれを当てると、軽く何度か繰り返し口付けて首に両腕を回し抱き付いて来る

「怖く…無いわ?」
言って俺の首筋に鼻先を埋めた

その場所で、安らかな寝息に変わる

今、時は深夜。

魑魅魍魎が闊歩するような時間…

振り向けば、俺の後ろには数多の亡骸の山。
それを貴女に知られる事の方が俺にとっては恐ろしく…怪談を聞くようなに背筋が凍る思いがする

自分の手は血に染まり…とても、貴女へ見せる事は出来ず…

茶化さねば、怪談など無理だった
世の中で一番恐ろしいのは…人だ。

魑魅魍魎など、夜にならねば出て来れぬ
が、人は…朝だろうと昼だろうと…夜だろうと御構い無しで。
笑ったまま、人を殺める


貴女はそんな事、出来ない。

白く美しい女(ひと)
そんな人を娶り、妻にする喜びを貴女は分からないだろう?

人殺しに見合わぬ程の女

それが貴女で、貴女を無くす事が自分には一番恐ろしい事で…

その細く甘い香りのする人の身体を強く抱く。

貴女だけは誰にも渡さぬ
貴女だけは決して離さぬ

俺が開けさせた襟をゆっくり開き、印を押す。
自分のものであると言う印を強く、吸い…暫く印が消えないように

俺はなんと、化け物染みた事をして…

怪談と言うなら…俺の話をすればいい。
俺は…闇に住む魑魅魍魎、亡者の類と近い者だ…

怖ろしい話をしたければ、俺の話をすればいい

胸の谷間に赤い印。
貴女は俺の物だ

貴女の身体に、俺の影を見て世の中の鬼が恐れ、怯えて逃げ帰る様に…貴女に印を施そう

そんな印を施していると言うのに貴女は、自分の快楽を追いかけようとし始める
貴女の夫は鬼であるのに…それに気か付かぬ天女。

気付かれぬ事にほっとする鬼。

朝まではまだ遠い。
貴女を怯えさせた鬼が全身全霊を懸け、天の国を垣間見せよう…




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Commented by Kimiko at 2017-08-14 16:44 x
昔母から人が一番怖いと言われたことがあります…
戦時中一人殺すと怖い、二人殺すと快楽、三人殺すと無感覚になる…

戦では人を斬ることが功を挙げることだけれども、そうではないヨンにとっては苦しみでしかないですよね。
戦争って嫌ですね。
by 2540hnnhk | 2017-08-13 21:58 | あの人が天門から戻ってからの話 | Comments(1)

「信義~シンイ~」に魅せられてその後のお話を綴っています。イラストも描きたい物を描いています


by のの