天女を娶る~海乱鬼焼船の章~115

天女を娶る~海乱鬼焼船の章~115





「大護軍、何か?」
傍に寄り、チュモがそう言った

「…間者がいる。女の格好で皇宮の中をうろついて居る故…もう一度、見て参る」
そう言うと、チュモは…
「ならば、私も。」

それには首を横にほんの少しだけ振り、拒否した

「ウダルチ隊の人員も、こうなると少なく感じるな…
まだ、向こうも直ぐに動く事は無いであろうから、俺だけで行く
あの女(ひと)から目を離すな、いいな?」

そう伝えると、チュモは「イェ」と短く返事をした

医員達の方では、まだ忙しく動いているが…動き出した高官達が廊下の角を曲がろうとするのが見え…少し焦る

急いで先程、此方へ戻って来た道をまた逆に戻る様に動く

皇宮の廊下を出て、木々の間を抜け…先程の後ろ姿の女が歩いて行った方向から回るのは止め、反対から、先程の文の受け渡しをした場所へ向かう。
多分…女の格好をしていた奴は、俺に気が付いていた

故に、既にその場所へ次の指示を投げ入れてしまっているに…違いない。

闘技場の方で侍医の手術が執り行われている間に。
それは、もう致し方なく。取り返す事は出来ぬから…

が、その文を拾いに来る方はまだ、その事に気が付いておらぬ

蝙蝠の姿を拝むには丁度良い具合だ…
自分が先程、女の姿をした間者の様子を窺っていた場所よりももう少し後ろの、薮の中からその場所を見つめる

恐らく、あの高官共の歩く波に乗り…その蝙蝠も同じように一度は控えの間に入室するだろう…暫く、他の高官共と歓談し頃合いを見計らって部屋を出て来る筈だ…

そう思って待っていると、その柱の有る廊下を誰かがゆっくり歩いて来る

気配を消そうとしている節は無く…その男はその場に顔を出した
後ろを気にし、後ろが大丈夫と思うと次は周りを見て…その場所へ手を伸ばす

その場所から文を出し…

恐らく先程の事も書かれているだろうと思い、薮の中に完全に身体を入れ込んでそちらを見る
案の定、俺と女の格好をしていた奴が先程この場で直接面と向かった訳では無いが…出会った事が書かれていたらしく…男は急いで此方に背を向けた

が、もう…それは遅い。

男の顔は今、自分の頭に記憶した…が、出来ればあの女の格好をした奴も捕まえねばならぬ故…今は、息を潜めその男の背中を眺める
どう見ても、その男は武術などとは無縁であったであろう事は明白で…

女のような形をしたその人物を捕らえる時に片手間で捕らえる事も可能の様だ。

ただ、逃げ出そうとしたなら話は別だ。
そう思い、手に持って居た鬼剣の柄にそっと触れる

男は、その場で立ったまま文を読み…その文を懐に入れた様で
その文に何が書かれていたかは分からんが、その場から急に動いて逃げ出す素振りだけは無く…
また、元来た廊下を歩き…控えの間に入った

恐らく、手筈通り動く様に指示が書かれていたんだろう…

どう言う経緯であの男が向こうと手を組んだのかは分からぬが…それ相応の思いは胸に秘めている様で
男の方も腹を括った様だ。

何処からどの様にあの女(ひと)を狙うのか…今はまだ分からんが…
今あの男をひっ捕らえれば、あの女の形の人物は間違いなく逃げる

女の形をしてはいるものの…かなりの手練れだ…出来れば、皇宮の外に出る前に捕まえたい
薮から顔を出し、周りを見る

やはり先程の女の形をした男の様な女の様な、小柄の人物は見えない
完全に…雲隠れしたらしい

この後は武閣氏の演武が終われば大将戦だ。
組手が決すれば、組み手は終了…

恐らく奴らはその終了直後の闘技場周辺で、ごく少数で動き、あの女(ひと)を狙う筈だ

奴等からしたら、敵だらけの皇宮内…
纏まった数が居らず攻め込む事も出来ぬ奴等。

しかも、恐らく狙いは俺の『弱み』のみ
王様に危害を与えようと言う気は無く、この皇宮で大きな騒ぎも起こしたくないと思いながら動いているようにも見え…

向こうの奴らは出来れば、余り多くの人間の記憶に残りたく無い様だ

とても…慎重に、とても…繊細に動いている
静かに…






「あのね、この糸は放って置けば体に吸収されてなくなってしまう糸なの。だから、抜糸はしないわ
ただ、私が良いと言うまでは、毎日綺麗な当て布に変えて頂戴。分かった?」

そう、ビョンハ君へ言うと、「分かりました」と短く答えた

「痛くない?」
そう聞くと、彼は笑って「大丈夫です」と言う

本当は何故、こう言う事に志願してくれたのか…聞いてみたいと思うけど、今日は聞いちゃいけないわね。

何処で、誰がこの会話を聞いているのか分からないし…

後ろを振り返る
あの人が此方を見ているんじゃないかって思って。

でも…其処にあの人は居らず、チュモ君が広くこの場を眺める様に警護しているのが見えた
何処へ…行ったんだろう?

そう思っていると、横に居たテマン君が小さい声で言う

「大護軍は…何か急なご用事の様です。先程、急いで裏手に回られました」
それだけ言って、テマン君は私から少し離れる

何か、思っても居ない事でも起きたのかしら…
少しだけ心配になり、もう一度振り向こうとすると、コム君が私に話しかける

「侍医様、お茶でもお飲みください。
人目のある場所でのご処置、ご苦労様でございました」
そう、あの人と同じ声で言い、頭を下げる…

こう言う時、少し…似ている声質の彼に救われる
本物のあの人ではないけど…不安な気持ちが、ほんの少しだけほっと出来る。

「大護軍は直ぐ、お戻りになります。座って茶でも飲んで…お待ちください」
そう言って口元しか見えない彼が笑う

机を見ると、茶が用意されていて茶菓子も置いてあった

「コム君、お一つ食べる?」
そう聞くと、彼は手を振って拒否をした

「今は警護中ですし、プジャンも彼方からご覧になっておられますので…ははは…」
とチュモ君の方を見た

チュモ君は、此方の方を注目してて…その彼の後ろから急にあの人の姿が見えた
私、目は…それ程悪くないの

あの人の表情…しっかり見る事は出来ないけど…

険しい。
その表情のままチュモ君に何かを話している…







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by 2540hnnhk | 2017-08-24 15:23 | 天女を娶る | Comments(0)

「信義~シンイ~」に魅せられてその後のお話を綴っています。イラストも描きたい物を描いています


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