木陰

木陰






「あら、テジャンも休憩?」
そう言って木の陰から現れたのは、思っても見ない人だった。

夏の暑い昼下がり、着物の生地がどんなに軽くても…幾重にも重ね着している着物は重くて暑い。
警護の間はその上に鎧まで着けて…

トルベが、よくしているみたいに上半身裸になって兵舎の横にある井戸の側、水を桶に汲んで大きな木の下の影に座り込んで身体を拭いていた
身体を拭き始めてから直ぐに声を掛けられたと言う事は…

「貴女、ずっと其処に?何故?」

兵舎の…
男ばかりが暮らしているこの場所に、女一人が…テマンさえこの方の側には居らず…
「テマンは?警護に就けておいた筈ですが?」

そう聞くと、その方は舌をぺろりと出して笑う

「また…撒いて来たんですか?」
そうやって問うと、その方は此方を見て笑い…

「やぁだ、そんな事出来る訳無いでしょ?トクマン君じゃあるまいし…」
「では、どうしてここに一人で?」

そう、切り返すとその方は言う。

「付いて来たら…泣くって…、エヘ♡」
その方はそう言って可愛らし気に笑いながら首を傾げた

そんな事を言われたら…確かに、あいつなら付いて来ないだろうな…

面倒臭くて。
テマンの嫌いな物は、よく泣く女と、子供。偉そうな高官共も嫌いだと言っていた

「またそんな事を…。貴女を護る為の警護を撒いて、貴女…自分に何かあった時どうする気で?」
半ば、怒って見せつつそう聞くとその方はきょとんとして此方を見ている

「え…?」
そう言って呆気にとられた顔を此方に向ける
「え?」
その表情の意味が分からず…聞き返す

「だって、貴方…私が此処に居るから来たのよね?」
言いながら地面を指差す

「私は、自分の休憩時間に身体の汗を拭いに来ただけで…」
「え?」

今度はその方の方が驚いた

「ただの…偶然なの?」
そう聞かれ…
「はい。」
と、答える

まさか…此処に来ているとは知らず…ただ、自分の休憩時に自分の身体を拭こうと久しぶりにこの場所へ来た位で…

「大体、何でこんな所に居るんです?しかも…男しか居らぬ様な処に。」

そう聞くと、その方はつまらなそうに答える

「だって…トクマン君が、此処の井戸の水が一番冷たいって言ってたし…、この大きな木の影が一番涼しいって…。風も良く通るからって。
それに、ウダルチ隊の兵舎の中だから…大丈夫かなって思って。」
あいつ…余計な事をベラベラと…

確かに他の場所へ忍んで行かれるよりはずっといいが…
相手はウダルチの中にまで間者を送り込もうとする様な奴だ、安心は出来んと言うのに…

ずっとつまらなそうに木に寄り掛かるその方へ顔を向け…何となく、聞いた

「それで?涼んだんですか?」
聞くと、その方は首を振る

「ううん。今、来たばかりだったから。
だから…てっきり、貴方は私を追って来たんだと思ったのよ…
何だ、違うのね~…」

言って、木に寄り掛かったまま目を瞑る

相変わらず…隙の多い方で…
その方から目を逸らし、自分の身体を拭き始める

「俺が、身体を拭き終えたら…典医寺へ戻りますよ?いいですね?」
そう言うと、その方は小さく「うん」と答える

顔を動かさず、目だけでその方の様子を見ていると、木陰の涼しさと通り抜ける風が心地良かったのか…右腕一本を拭いた頃には居眠りを始めた
これは…全身拭いても時間が余りそうな感じだな…

そう思いつつ、木に寄り掛かり眠っているその人の側で自分の身体を拭く
濡れた布で拭いた身体の上を風が通り、心地よく…溜め息が出た。

全く、この方は俺の前で良く…眠る方だ

俺が男である事をすっかり…忘れてしまっているんではないだろうか?

ほんの少しだけ、自分の胸の中をもやもやとした物が沸き上がって来た瞬間だった

その方の寝息は、規則正しく…安心し切って眠っている様に…見える。





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by 2540hnnhk | 2017-08-25 15:25 | あの人が天門を潜る前の話 | Comments(0)

「信義~シンイ~」に魅せられてその後のお話を綴っています。イラストも描きたい物を描いています


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