天女を娶る~海乱鬼焼船の章~101

天女を娶る~海乱鬼焼船の章~101




「やだ、テマン君って…意外と何でも似合っちゃうのね?」
奥様は此方を向いてそう呟いた

今日は、奥様の側で奥様を守らなきゃいけないから…
激しい自分の癖毛を白い布で巻いて押さえつけて…襟足だけは残して、男物の典衣を身に付けて帽子を被った

多分、それだけでもいつもの姿とはかなりかけ離れているから…バレないとは思うけど…取り敢えず、付け髭だけは付けてみた
そんな姿を見て奥様が呟いたんだ

「お…奥様、一応おいらも成人してるんです…
髭位伸ばした事もありますし…」
そう言うと、奥様は笑う

「あ、そうよね?そうだったわ?
テマン君も立派な大人だもの…御免なさいね」
言いながらやっぱり笑う

髭が…似合わない事位自覚してる

トクマンの髭が似合わないよりもずっと似合わないのも…自覚してる
でも、しょうがないだろ?
今日は奥様の隣で医員に成りすまさなきゃならないから…

何となく、視線を感じて…部屋の入口の辺りを見ると、トギが此方を覗いて…堪え切れなかったのか笑ってる
ニヤニヤと…、ちぇ!

奥様の方へ視線を戻して話を進める

「奥様、今日はおいらと誰が付いて行くんです?典医寺から…」
そう聞くと、奥様は答える
「うん、今日はね…テマン君と、エラク君、チャン君と…この人よ?」
そう指を折りながら言って、女の医員を一人呼ぶ

女の医員は畏まりつつ、此方の方へ寄って来て…言う

「お久しぶりで御座います…テマン様」
そう言って畏まり俯いていた女が顔を上げる
「…奥様…これは、どう言う事ですか?」

その女を見ながら言うと、奥様は「ふふふ」と笑った

「困った人達が来るかもしれないのに自分を守る警護をぜーんぶ、あの人に任せっきりって言うのはちょっとね?
私の方でもちょっと策を練ってみたのよ?ふふふ」

奥様は楽しそうに自分の顎に指を添えて…笑う

「え…?と、言う事はこの事は大護軍は…?」
そう聞くと、予想通りの答えが返って来た
「勿論、知らないわ。」

言って奥様は此方に向かって片目だけを閉じて見せる

大護軍は…真夜中から今日の準備の為に康安殿へ既に出掛けていて…

もう直ぐ夜は明けるけど…この後も、此方に戻る時間は無くて…
大護軍のお顔を俺が見られるのは…闘技場まで行かなくちゃ会えない…

しかも闘技場ではかなり離れた場所に居られるし…
大護軍は王様の側…おいらは闘技場の脇に控えて…奥様をお守りしなくちゃいけなくて…

「テマン君?君の事を信頼してるけど…今回、典医寺から救護に当たるのは私だけじゃないわ?
私の為に、私の側に居たからと他の医員が傷付くのは…嫌なの。」

奥様はそう言って少し心配そうな顔を此方に向けた

「確かにウダルチ隊から二名就けてくれるって言ってくれてるけど…その場の処置によってはどうなるか分からないわ?
荷物を全部ウダルチ隊に預けておいて正規の医員である三人が三人がかりで患者に向き合わなきゃいけないかもしれないでしょ?
そうなったら流石のウダルチでも、手が使えないじゃない…それじゃあ、其処に居る者を守れないわ?」

奥様はもっともな事を仰る

「だから…テマン君と彼女にはそうなった場合に道具を持ってもらう役目をしつつ、道具を持たない場合は私達医員三名の護衛をウダルチ達と共にお願いしたいの」
奥様がそう言って此方をじっと見る

奥様は、極端に人が傷付く事が御嫌いで…
それは、身内であればある程その思いは強くて…

典医寺の侍医となられた今、奥様の手の中には数十人の医員が居て…、それらは皆、奥様の身内として考えていらっしゃる様で…
確かに…奥様一人をお守りするなら、ウダルチ二人と俺だけで良い

でも、もう二人典医寺の医員も守れと言う事なら…足りない。

相手がどんな奴かもはっきりしない場合は、特に。
少なくとも自分は奥様を最優先に守る

だから、奥様はご自分で考えられて…もう一人、その役の出来そうな女を入れたと言う事らしくて…

「…分かってくれたようだから、今日はこの面子で動くわよ?
テマン君も宜しくね?」
奥様はそう言って俺の肩を力一杯掌で叩かれた







「大護軍…侍医の様子はどうか?」

先程まで居た重鎮たちを下がらせ、自分だけに残る様に王様が仰った。
漸く二人きりになった時、そうお尋ねになる

「今日の準備に忙しそうでございますが…」
そう返すと、王様の望んだ返事では無かったようで…大きく溜息を吐かれた

「そうでは無く…、罪な男の事で気落ちして居らぬかと聞いておる。
王妃も心配して居ってな…どうか?」
王様はそう、俺へ問われる

「罪な男とは誰の事かは存じませんが…侍医はいつも通り気力も生気も十分かと。
典医寺には毎日朗らかな声が響いております」

そんな風に自分は答える

「…何か考えあっての?」
そう問われ…声無く頷く

どこで誰が聞いているのか分からぬ故…妙な会話になってしまったが…

「今日も準備がある故、さっさと出て行けと言われて出てきた程で御座います…
王様、王妃様がご心配になられるような事は…ございません」
そう伝えると、眉を困ったように歪ませ

「全く…」
とだけ、呟かれ呆れた様な顔を此方に向けられる

「本日の組手、真剣勝負と聞いた…相違ないな?」
王様は話を切り替えられ、今日の御前組手の話題になった

「そう、聞いております。
禁軍及び、ウダルチ隊の各々の代表が出ての組手…手を抜く事など出来ますまい…」

畏まり、そう言うと王様が漸く普通にお笑いになる

「これは…楽しみだ。
思えば…この御前組手は余が王となってから漸く二度目…我が兵達の巧手、じっくり見せて貰おう…
組手開始は…もう二時ほど後だったな?」
王様はそう、確認されそれに対して頷いて答える

「王様には闘技場へ一刻半程後にお出で頂くよう手筈を整えております。
今暫く、お待ち頂きますよう」
それだけを言って王様の前を後にする

王様の執務室を出ると、其処にはチュンソク達ウダルチ隊が居り…王様の動かれる時間までその場で警護しつつ、待機している

そして、執務室から出て来た俺に頭を下げて言った
「大護軍、先程アン・ジェ殿がお会いしたいと…大護軍の執務室の方で待つとご伝言を…」

そう言って、チュンソクは王様の執務室の入り口を固める

自分はそれを横目に自分の執務室へ向かう
こんな御前組手開始が差し迫ってから、話があると言う幼馴染に会う為に執務室へ向かった





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by 2540hnnhk | 2017-05-19 12:34 | 天女を娶る | Comments(0)

「信義~シンイ~」に魅せられてその後のお話を綴っています。イラストも描きたい物を描いています


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